2026年10月8日に中小企業基盤整備機構のJ-Net21、米国SBAの損益分岐点ガイドを再確認した。損益分岐点は対象範囲で売上高と総費用が等しくなる規模で、固定費・変動費・単価・限界利益の定義をそろえて計算する。安全余裕率や目標利益の試算は判断材料だが、商品構成、能力、価格変化、入出金、借入返済を含まない単一の点だけで採算や資金繰りを決めない。
売上は増えているのに、利益が思うように残らない。そんなときは「いくら売れば赤字を抜けるのか」と「そこからいくら利益が残るのか」を分けて計算すると、価格・原価・固定費のどこを見直すか考えやすくなります。
30秒で要点
- 損益分岐点は、決めた費用範囲で利益がゼロになる売上規模です。計算の前に、対象月・事業・費用の範囲をそろえます。
- 必要売上は「固定費 ÷ 限界利益率」で求めます。ただし、売上から変動費を引いた残りが正で、費用構造を一定と置ける範囲の式です。
- 比較では利益額・利益率・売上が下がっても赤字にならない余地を併せます。低い損益分岐点だけで投資先や撤退を決めません。
損益分岐点は「固定費を回収し終える売上」
商品が売れると、売上のすべてが利益になるわけではありません。材料や販売手数料など、販売に伴う費用を先に引きます。その残りで家賃などの固定費を回収し、回収し終えた後に利益が残ります。
この境界を損益分岐点、売上金額で表した値を損益分岐点売上高と呼びます。J-Net21は、通常は営業利益がゼロとなる売上規模として説明しています。J-Net21の計算解説
まずは1事業の1か月など、同じ期間で計算してください。月の売上に年額の固定費をそのまま入れると、境界が別の意味になります。また、営業利益を扱う計算に、借入金の返済を費用として混ぜると、採算と資金繰りが混ざります。何を含む利益かは、利益の種類の違いで確認できます。
固定費と変動費は費目名だけで決めない
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| 費用の見方 | 意味 | 確認する例 |
|---|---|---|
| 固定費 | 想定する活動範囲で、数量が変わっても総額が変わらない費用 | 家賃、定額給与、月額契約の基本料 |
| 変動費 | 数量や売上に応じて増える費用 | 1個当たり材料費、売上に対する販売手数料 |
| 混合費用 | 固定部分と変動部分を併せ持つ費用 | 基本料と従量料金のある契約 |
人件費はすべて固定費、外注費はすべて変動費、とは限りません。残業や出来高払い、月額最低料金など、契約と実際の発生条件を見ます。SBAも、混合費用を固定部分と変動部分へ分けて入力する方法を示しています。SBAの損益分岐点ガイド
「一定と置ける範囲」も必要です。今の人数と設備で対応できる数量なら固定費が同じでも、その先で増員や増床が必要なら費用が跳ね上がります。この範囲を超えて同じ直線を延ばさないようにします。OpenStaxの費用構造と限界利益の説明
4つの式をつないで計算する
売上から変動費を引いた残りが限界利益です。最終利益ではなく、まず固定費の回収に使える金額だと考えてください。
変動費率は売上のうち変動費に使う割合です。
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
限界利益率は、固定費の回収と利益に残せる割合です。
限界利益率 = (売上高 - 変動費)÷ 売上高 = 1 - 変動費率
損益分岐点売上高は次の式で求めます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 - 変動費率)
同じ式を限界利益率で書くと、固定費を何円の売上で回収するかが見えます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
たとえば限界利益率40%なら、売上1円から固定費の回収に回せるのは0.4円です。固定費500万円を回収するには、500万円 ÷ 0.4 = 1,250万円の売上が必要になります。
この式は限界利益率が正の場合に使います。 固定費が正で、限界利益率が0なら売っても固定費を回収できません。負なら、同じ費用構造のまま売るほど損失が増えます。計算で負の売上高が出ても、それを達成すべき損益分岐点とは扱いません。
複数商品を扱う場合、事業全体の変動費率には商品構成が反映されます。低い限界利益率の商品へ売上が移れば、総売上が同じでも利益は変わります。過去の平均率を使うときは、今後も同じ構成を置いてよいかを確認します。
同じ月の2事業を比べる仮想例
以下は計算方法を確認するための仮想例です。両事業とも同じ1か月、同じ費用の範囲で集計し、表の売上範囲では固定費と変動費率が一定と仮定します。実顧客の業績ではありません。
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| 月次の項目 | 事業A | 事業B |
|---|---|---|
| 固定費 | 500万円 | 300万円 |
| 変動費率 | 60% | 70% |
| 限界利益率 | 40% | 30% |
| 現在の売上高 | 1,500万円 | 1,200万円 |
| 変動費 | 900万円 | 840万円 |
| 限界利益 | 600万円 | 360万円 |
| 利益 | 100万円 | 60万円 |
| 損益分岐点売上高 | 1,250万円 | 1,000万円 |
Aの利益は、1,500万円 × 40% - 500万円 = 100万円です。Bは、1,200万円 × 30% - 300万円 = 60万円になります。
利益額と赤字までの余地は別に比べる
利益率は、利益を売上で割った割合です。一方、安全余裕率は、今の売上から損益分岐点までどれだけ下がれるかを、今の売上に対する割合で表します。費用構造が変わらない条件での余地です。
利益率 = 利益 ÷ 売上高
安全余裕率 = (売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 売上高
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| 比較する指標 | 事業A | 事業B |
|---|---|---|
| 利益率 | 約6.7% | 5.0% |
| 損益分岐点までの売上差 | 250万円 | 200万円 |
| 安全余裕率 | 約16.7% | 約16.7% |
Aの利益額と利益率は高い一方、売上が下がれる割合は同じです。Bの損益分岐点が低いことだけで「Bの方が安全」とは決められません。また、この表には必要な投資額、売上の変動、顧客への価値、事業間で共有する費用の配分が入っていません。投資や撤退の判断には、それらも必要です。
目標利益と改善策を試算する
赤字を抜けるだけでなく、Aで月200万円の利益を目指すなら、固定費500万円に目標利益200万円を足して回収する必要があります。
目標利益に必要な売上高 = (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率
事業Aの例 = (500万円 + 200万円)÷ 0.4 = 1,750万円
これは「1,750万円売れる」という予測ではありません。そこまで販売できる需要と能力があるかを調べるための目安です。必要売上で増員が生じるなら、増えた固定費を入れて再計算します。
引下げ策も、一度に全部変えず、まず別々の仮定として比較すると影響を追えます。
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| Aの試算条件 | 固定費 | 変動費率 | 損益分岐点売上高 |
|---|---|---|---|
| 基準 | 500万円 | 60% | 1,250万円 |
| 固定費だけ50万円減 | 450万円 | 60% | 1,125万円 |
| 変動費率だけ5ポイント減 | 500万円 | 55% | 約1,111.1万円 |
60%から55%は5パーセントポイントの低下です。実行時は、固定費削減で能力や品質が落ちないか、仕入条件変更に最低発注量や在庫負担がないかも確認します。値上げは1件当たりの余力を増やせても、販売数量が減る可能性があります。式の上で有利な変更と、実施して有利な変更は分けて考えます。
複数条件が動く場合は、感度分析の進め方を使って、結論が変わる前提と範囲を調べられます。
月次の判断で確かめる5つの手順
- 問いと範囲を決める。 既存事業の採算確認か、新しい施策の追加費用を回収したいのかを区別します。対象月・商品・利益に含める費用を記録します。
- 費用を分類する。 会計上の科目だけで決めず、契約・請求・数量との関係を見ます。判断できない費用は、仮置きと根拠を残します。
- 実績を再計算する。 売上 - 変動費 - 固定費が、採用した範囲の利益と一致するか確認してから損益分岐点を出します。
- 比較する。 現売上との差、利益率、安全余裕率、目標利益の必要売上を併記します。資金の入出金予定は別表で確認します。
- 前提を1つ変えて確かめる。 重要な費用の分類や商品構成を変えると採否が変わるか、次に何を測ればよいかを決めます。価格改定・契約更新・増員があれば式も見直します。
最初から完璧な配賦を目指す必要はありません。ただし、簡便な分類で得た値を確定的な事業評価に変えないことが大切です。比較の結論を変える費用から、見積書や実績に戻って確認します。
黒字なのに支払いが足りなくなる問題は、この式だけでは解けません。入金と支払いの時期を確認する際は、キャッシュフローの基礎へ進んでください。