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リニューアルしたいと言われたとき、まず整理すること
判断の構造 第1回
「そろそろサイトを作り直したい」
「デザインが古いのでリニューアルしたい」
「競合に比べて見た目が劣っている」
——相談の入口で、よく聞く言葉です。
私たちは、このタイミングですぐ制作の提案をしません。失礼だからではなく、手段が先に来ると判断が壊れやすいからです。
この記事は、匿名化したケース構造として、相談で何をしたかを共有します。正解のテンプレートではありません。前提が違えば結論も変わります。
30秒で要点
- リニューアルは目的ではなく手段
- まず「作り直しで解ける課題か」を分解する
- 作る・直す・待つ・別打ち手——を同じ土俵で並べる
- 仮説は1つに絞り、検証可能な形で置く
- 前提が変わったら見直す条件まで決める
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| SEO | 検索エンジン最適化。検索エンジンに見つけてもらい、評価してもらう取り組み |
| UI | 画面の見た目と操作 |
相談の入口
ある相談では、担当者の方から次のように話がありました(要約)。
- コーポレートサイトが5年以上前のまま
- 採用・問い合わせの質が上がらない
- 上司から「そろそろリニューアルを」と言われている
- 複数社にざっくり見積もりを取り始めている
確かなこと: 見た目への不満と、社内の「やった感」欲求はある。
不確かなこと: 問い合わせの質が低い原因がサイトにあるか、予算と期限、意思決定の構造。
入口の時点では、「リニューアル」が既に結論になっていました。私たちは、まずその結論を保留に置きました。
すぐ制作を提案しなかった理由
制作会社として、リニューアルは提案しやすい案件です。しかし次の混乱構造があります。
- 見た目の不満は感情として分かりやすい
- 成果の停滞は原因が複数あり得る
- 社内では「動いた」ことが評価されやすい
- 外注先には「作る」ことが依頼されやすい
このとき制作を先に売ると、クライアントは安心するかもしれません。一方で、作り直しても問い合わせの質が変わらないパターンを、私たちは何度も見てきました。
失敗像はこうです。
- 数百万〜数千万をかけて公開
- デザインは新しくなる
- 問い合わせは「量だけ増え、質は変わらない」
- 「次はSEO(検索エンジン最適化。検索エンジンに見つけてもらい、評価してもらう取り組み)か広告か」と、また手段が増える
だから私たちは、制作を悪いと言うのではなく、制作が妥当かどうかをまだ決めない立場から入ります。
分解した論点
相談の初回で、論点を4つに分けました。
1. 目的(何が困っているか)
| 言葉 | 表面の意味 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 採用 | 応募を増やしたい | 母集団の問題か、サイトの問題か |
| 問い合わせ | リードを増やしたい | 量か質か、誰の問い合わせか |
| 古い | 信頼を損ねている | 実際に失注理由になっているか |
2. 制約(動ける範囲)
- 予算:社内でおおよその上限はあるが、まだ承認前
- 期限:年度内に「何か」見せたい圧力
- 体制:更新担当は兼任、開発リソースは外注前提
- 意思決定:上司1名が最終決裁、現場担当は提案責任
3. 現状(いま何が分かっているか)
- アクセス数は横ばい(大きな落ち込みではない)
- 問い合わせ数は微増、採用応募は減少傾向
- 競合3社のサイトは定期的に見ているが、比較軸は「見た目」中心
- 過去のリニューアル資料は残っていない
4. 判断基準(どうなったら成功か)
ここが最も曖昧でした。「きれいになれば成功」では測れません。一緒に書き直したのは次の形です。
- 採用: 応募の「件数」ではなく、面談に進む応募の割合
- 問い合わせ: 件数ではなく、社内で「対応する価値がある」と判断できる割合
- 撤退線: 6ヶ月後に上記が改善しなければ、サイト以外の要因を本線に切り替える
指標の分母・分子をここで定義しました。これがないまま制作に入ると、後から「何が良くなったか」が議論できません。
置いた仮説
論点を踏まえ、仮説は1つに絞りました。
仮説: いまの停滞の主因は、サイトの見た目ではなく、誰に何を伝え、どの行動を促しているかの設計が採用・問い合わせでずれている可能性が高い。
言い切りますが、正解ではありません。検証可能な形にしたのが次の最小ステップです。
- 現行サイトの採用ページ・問い合わせ導線だけを対象に、1週間で「誰向けの何の約束か」を1枚に書き出す
- 直近3ヶ月の問い合わせ・応募を、社内ラベルでざっくり分類する(内容が分かる範囲で)
制作全体の前に、導線の2本だけを見る。これなら内製でも回せる負荷です。
判断したこと
2週間後のフォローで、次を判断しました。
- 全面リニューアルは、いまは保留
- 理由:仮説検証前に工数が大きすぎる。失敗時のコストが高い。
- 採用導線と問い合わせ導線の「約束の言語化」を先に実施
- 社内ワークショップ形式で1回。外注はドキュメント化の支援に留める。
- 見積もり比較は一旦止めてほしい
- 比較軸が「デザイン・価格」に固定されると、論点が歪むため。
- 3ヶ月後に再判断
- 導線の言語化と分類の結果を見て、部分改修・全面制作・別施策のどれが妥当か決める。
「作らない」と言ったわけではありません。作るタイミングを、前提が揃った後にずらしたという判断です。
相談後に整理されたもの
相談の結果、クライアント側に残ったのは次のようなものです(成果物の形式は案件ごとに変わります。固定の納品物ではありません)。
- 採用・問い合わせそれぞれの「誰に・何を・次の行動」1枚サマリー
- 問い合わせ・応募の簡易分類表(社内用)
- 3ヶ月後の再判断に使う指標定義(分母・分子・単位を明記)
- 「全面リニューアルに進む条件」のチェックリスト(3項目)
デザインカンプやワイヤーは、この段階では出していません。出すと、また「作る」議論に引きずられるからです。
次に見直す条件
一度の相談で終わりにしません。次のいずれかが起きたら、仮説と判断を見直します。
| 条件 | 見直しの方向 |
|---|---|
| 分類の結果、問い合わせの質問題がサイトより営業プロセス側に偏る | サイト投資の優先度を下げ、営業・受け皿の設計を本線に |
| 3ヶ月で指標が動かないが、導線の約束は明確になった | 情報設計・UI(画面の見た目と操作)の部分改修、または全面制作を再検討 |
| 予算・期限が急に短くなる | スコープを「1導線だけ」に限定した制作に切り替える |
| 意思決定者が変わり、「とにかく作り直し」が再び最優先になる | 撤退線と成功指標を再合意したうえで進むか、見送るかを選ぶ |
正解は1つに固定しません。前提が変わったら、判断も更新する——それがこのシリーズで一緒に書きたいことです。
この型が効く条件・効きにくい条件
効きやすい:
- 手段(リニューアル・広告・AI等)が先に来ている
- 社内で「何が成功か」の定義がまだ曖昧
- 比較見積もりの前に、比較軸を揃えたい
効きにくい:
- 法務・ブランドガイドで全面刷新が必須と既に決まっている
- 期限が2週間以内など、整理の余白がない
- 「言われた通りに作ってほしい」だけが求められている
合わない場合は、私たちは無理に引き受けません。それも誠実な判断だと考えています。
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