運転資本とCCCとは?利益が出ているのに現金が減る仕組みを日数で押さえる
決算書では利益が出ている。それなのに、月末が近づくと通帳を何度も確認している。金融機関に説明を求められても、「売上は伸びているんですが、なぜか手元が厳しくて」としか言えない。
この状態は、感覚の問題でも経営者の力量の問題でもありません。利益と現金は、別のタイミングで動く数字だからです。そしてそのズレは、日数として計算できます。
この記事では、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の定義をもとに、利益と現金のズレを日数で押さえる方法を整理します。
出典はJ-Net21「資金繰り改善法(基礎編)」、「運転資金の考え方」、「運転資金の考え方(小売業)」です。
ひとつ先に断っておきます。「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」という名称は、上記の公的機関のページには登場しません。 これらのページが定義しているのは後述する3つの回転日数のほうで、CCCはそれを組み合わせた日数に対して実務で広く使われている呼び名です。この記事では、公的に定義されている部分と、実務上の呼び名である部分を分けて書きます。
なお、キャッシュフローそのものの考え方はキャッシュフローとは?資金繰りをどう管理するかで扱っています。この記事はその中の「日数で捉える」部分に絞ります。
30秒で要点
- 売上が立つ時点と現金が入る時点はずれる。J-Net21も「売上が立ったとしても、すぐに入金されるとは限りません」と説明している
- 売上債権回転日数=平均売上債権残高/純売上高×365。売れてから現金になるまでの日数で、短いほど回収状況が良い
- 棚卸資産回転日数=平均棚卸資産残高/純売上高×365。仕入から売上までの日数で、短いほど販売効率が良い
- 買入債務回転日数=平均買入債務残高/純仕入高×365。購入から現金決済までの日数で、長いほど資金繰りに余裕ができる
- 最初の2つが「現金が出ていってから戻るまで」、3つ目が「支払を待ってもらえている期間」。その差が、自社で立て替えている日数になる
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 運転資金 | J-Net21の定義では「日々の事業を続けていくために必要となるお金」 |
| 売上債権 | 売ったがまだ現金を受け取っていない分(売掛金・受取手形など) |
| 棚卸資産 | 仕入れたがまだ売れていない分(在庫) |
| 買入債務 | 仕入れたがまだ払っていない分(買掛金・支払手形など) |
| 回転日数 | その資産・負債が、何日分の商売の量に相当するかを表した日数 |
利益と現金がずれる理由は、時間差にある
J-Net21の小売業向けの解説には、こう書かれています。「販売方法によっては、売上が立ったとしても、すぐに入金されるとは限りません。逆に仕入れで支払が発生した場合も、商品が届いたと同時に振り込むのではなく、時間を置いて支払う場合もあるでしょう。」
ここに、利益と現金がずれる理由のすべてが入っています。売上は「売った時点」で計上されますが、現金は「入金された時点」で動きます。 仕入も同じで、費用は仕入れた時点、現金は支払った時点です。
この時間差があるかぎり、利益がいくら出ていても、現金が同じタイミングで手元にあるとは限りません。そして事業が成長しているときほど、この差は広がります。売上が増えるということは、まだ回収していない売上債権も増え、それを支えるための在庫も増えるからです。成長と資金繰りの苦しさが同時に来るのは、構造としてそうなります。
同機構は運転資金を「日々の事業を続けていくために必要となるお金」と定義しています。素朴な定義ですが、この「必要となる」の中身が、いま述べた時間差です。
3つの日数を、定義どおりに押さえる
では、その時間差をどう測るか。J-Net21「資金繰り改善法(基礎編)」は、3つの回転日数を式とともに定義しています。分母と分子をはっきりさせて確認します。
売上債権回転日数
売上債権回転日数(日)= 平均売上債権残高 ÷ 純売上高 × 365
- 分子:平均売上債権残高(まだ回収していない売上の平均的な残高)
- 分母:純売上高(年間)
- 意味:商品が売れてから現金として回収されるまでの日数
同ページは「日数が短いほど回収状況が良い」としています。
棚卸資産回転日数
棚卸資産回転日数(日)= 平均棚卸資産残高 ÷ 純売上高 × 365
- 分子:平均棚卸資産残高(在庫の平均的な残高)
- 分母:純売上高(年間)
- 意味:仕入から売上までの日数。製造業では、原材料を仕入れてから製品として売り上げるまで
同ページは「日数が短いほど販売効率が良く資金繰りに余裕ができる」としています。
買入債務回転日数
買入債務回転日数(日)= 平均買入債務残高 ÷ 純仕入高 × 365
- 分子:平均買入債務残高(まだ払っていない仕入の平均的な残高)
- 分母:純仕入高(年間)
- 意味:商品や原材料を購入してから現金決済するまでの日数
同ページは「日数が長いほど資金繰りに余裕ができる」としています。ここだけ、長いほうが有利という向きになる点に注意してください。
3つを1本の時間軸に並べる
3つの日数が出そろったら、時間軸の上に並べます。
仕入れる → (棚卸資産回転日数)→ 売れる → (売上債権回転日数)→ 入金される
これが、現金が戻ってくるまでの道のりです。一方で、支払いのほうは仕入れた時点からすぐではなく、買入債務回転日数のぶんだけ待ってもらえています。
つまり、自社が現金を立て替えている期間は、前半2つの合計から、待ってもらえている期間を引いたものになります。
立て替えている日数 = 棚卸資産回転日数 + 売上債権回転日数 - 買入債務回転日数
この日数が、実務で「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」と呼ばれているものです。ただし冒頭で断ったとおり、この名称は今回の出典である公的機関のページには出てきません。 公的に定義されているのは3つの回転日数のほうであり、それを組み合わせた日数にどういう名前を付けるかは、この出典の範囲外です。名前を知っていることより、3つの日数がそれぞれ何を測っているかを説明できることのほうが実務では効きます。
この日数がプラスであれば、その日数ぶんの現金を自社で用意し続ける必要があります。売上規模が大きくなれば、同じ日数でも必要な金額は増えます。「黒字なのに苦しい」という状態は、多くの場合この日数が長いまま売上だけが伸びている状態として説明できます。
ただし念のため付け加えると、これは説明の枠組みであって、この記事の出典が「黒字倒産の原因はCCCである」と述べているわけではありません。倒産や資金ショートの要因は個別に異なります。
なぜ「利益を増やせば解決する」と考えてしまうのか
資金繰りが苦しいと分かったとき、多くの経営者がまず売上と利益の改善に向かいます。この反応が自然に出てくるのには理由があります。
ひとつは、私たちが日常的に見ている数字が、損益計算書だからです。 月次で確認するのも、税理士から説明されるのも、多くの場合は売上と利益です。手元にある道具で問題を解こうとするのは自然なことで、その道具が損益であれば、解決策も損益の言葉で出てきます。
もうひとつは、日数という単位で経営を見る習慣が薄いことです。売上は円、利益も円。ところが資金繰りの問題は、円ではなく日で発生しています。同じ1,000万円の売上でも、回収が30日後か90日後かで、必要な手元資金はまったく違います。単位が違う問題を、同じ単位の道具で解こうとすると、努力の方向がずれます。
そして三つ目に、利益改善は成果が見えやすいという事情があります。回収サイトを30日縮める交渉は、成功しても損益計算書には何も現れません。効果が現れるのは資金繰り表のほうで、そちらを月次で見ていなければ、やった意味を実感できません。
確かなことと、まだ確かではないこと
確かなこと:J-Net21(中小企業基盤整備機構)が3つの回転日数を上記の式で定義していること。売上債権回転日数と棚卸資産回転日数は短いほど、買入債務回転日数は長いほど資金繰りに有利だと同ページが説明していること。過剰在庫が資金を固定化させて資金繰りを悪化させるとされていること。同機構が運転資金を「日々の事業を続けていくために必要となるお金」と定義していること。売上計上と入金、仕入計上と支払にタイミングのズレがあること。
まだ確かではないこと:「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」「CCC」という名称は、今回の出典には登場しません。3つの日数を組み合わせる式についても、出典が式の形で提示しているわけではなく、各日数の定義と向きから組み立てたものです。また、この日数の長短が倒産や資金ショートにどれだけ寄与するかについては、本記事の出典は何も述べていません。業種によって適正な日数は大きく異なるため、他社との比較には同業種のデータが必要です。
判断軸の提示
資金繰りの問題を「いくら足りないか」で捉えず、「何日ぶん立て替えているか」で捉えること。
金額で捉えると、対処は資金調達に向かいます。借入は有効な手段ですが、日数が長いままであれば、売上が伸びるたびに同じ問題が再来します。日数で捉えると、対処は3つに分解されます。
- 在庫を持つ日数 — 自社で決められる部分が比較的多い。ただし欠品リスクとの見合い
- 回収までの日数 — 取引条件の問題。相手はいるが、契約更新のタイミングで動かせる
- 支払までの日数 — 相手のある変数。ここだけ「長くする」方向が有利になるが、信用に直結する
このうち、最初に手をつける価値があるのは1番目です。相手との交渉を必要とせず、自社の判断で動かせる範囲が最も広いためです。3番目は計算上は最も効きますが、取引先との関係を消費する打ち手であり、数字だけを見て動かす性質のものではありません。
自分でも試せる、最小の検証
直近の決算書を用意して、3つの日数を実際に計算してみてください。 必要な数字は、売上債権残高・棚卸資産残高・買入債務残高・純売上高・純仕入高の5つで、すべて決算書から取れます。厳密な平均残高が出せなければ、期首と期末の平均で構いません。
計算した3つを時間軸に並べて、立て替えている日数を出します。その日数を見て、「これは長いのか短いのか」と迷ったら、それが次の問いです。同業種の水準を知らないまま、自社の日数だけを見ても評価はできません。 ただ、来期の同じ計算と比べることはできます。まず1回計算して記録しておくことが、比較の起点になります。
この記事で扱ったような判断を、自社の状況に照らして整理したい場合は、無料診断ツールで状況を言語化するところから始めることができます。
状況を整理する(15分)