2026年10月8日に確率の教科書資料とTversky・Kahnemanのフレーミング論文を再確認した。負けたら倍賭けるマーチンゲールは、有限資金では次の倍額を賭けられない局面が生じ、勝率の印象と継続可能性を分けて考える必要がある。記事の37区画、13回上限、1億円、1セットと7300セットの数値は独自モデルであり、実市場や人生の確率、利益保証の実測ではない。
99.98%勝てても、続けられるとは限らない
Human Insight #01 小さな成功を何度も得ることと、大きな失敗に耐えられること。その違いを、確率と資金の両側から考えます。
「約99.98%の確率で1万円を得る」と聞くと、損失の条件を後回しにしてしまうかもしれません。では、その反対側に「約0.0173%で8,191万円を失う」があるなら、どう判断するでしょうか。
この数字は、後で条件を固定する倍賭けのモデルから出ています。実際の成績でも必勝法でもありません。考えたいのは、成功の回数と、失敗したときに続けられる条件は別の情報だということです。
30秒で要点
- 上限13回のモデルでは、1セットの利益は1万円か、損失8,191万円のどちらかになる。
- 1億円から13連敗した後も1,809万円は残る。ただし次の8,192万円を賭けられず、同じ倍賭けは継続不能になる。
- 成功益を別口に保管し条件を固定すると、7,300セットまでに初回の13連敗に遭う確率は約71.6%。資金がゼロになる確率とは違う。
- 仕事へ持ち帰るのはゲームの確率ではなく、損失の大きさ、追加投入の上限、停止条件を一緒に見る問い。
倍にすれば取り戻せる、という説明の続き
マーチンゲール法という賭け方は、負けたら前の賭け金を倍にし、勝ったら初期額に戻す方法です。数学でいう確率過程の「マルチンゲール」と同じ名称で語られますが、この賭け方が利益を保証するという意味ではありません。Dartmouth公開の確率論教科書も、有限資金で次の倍額を用意できなくなる例を扱っています。
たとえば1万円、2万円、4万円と負けて、次の8万円で勝てたとします。勝ったときの純利益が賭け金と同額という条件なら、8−(1+2+4)=1万円が残ります。何回目で初めて勝っても、そこまで賭け続けられれば同じです。
問題は、その「賭け続けられれば」にあります。損失と次に必要な資金は、回数に比例せず倍々に増えます。
計算する前に、1セットの終わり方を固定する
以下は説明用の仮想モデルです。0を含む37区画が等確率で出るルーレットを想定し、18区画なら勝ち、残り19区画なら負けとします。各回は独立で、勝てば賭け金と同額の純利益、負ければ賭け金を失う条件です。
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| 条件 | このモデルで固定する内容 |
|---|---|
| 賭けに使う初期資金 | 1億円=10,000万円 |
| 初回の賭け金 | 1万円。負けるたびに倍 |
| 1セット | 最初の勝ち、または13連敗で終わる。最大13回 |
| 成功した後 | 1万円の利益を別口へ保管し、賭け用資金は1億円に戻す |
| 13連敗した後 | この計画を停止する。残金や別口の利益を追加投入しない |
| 反復する期間 | 毎日1セットを予定し、1年365日として最大20年。うるう日は省略 |
賭け金上限や手数料は加えません。実際のテーブル上限が低ければ、もっと早く倍賭けを止める必要があります。利益を再投資して上限を増やす方法は、後で別の条件として扱います。
13連敗で失う金額と、残る金額
初回から13回目までの賭け金を足すと、1+2+4+…+4,096=2の13乗−1=8,191万円です。13回目に負けた時点で、賭け用資金は10,000−8,191=1,809万円になります。
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| 連敗後 | 累計損失 | 残資金 | 次の賭けに必要な額 |
|---|---|---|---|
| 10連敗 | 1,023万円 | 8,977万円 | 1,024万円 |
| 11連敗 | 2,047万円 | 7,953万円 | 2,048万円 |
| 12連敗 | 4,095万円 | 5,905万円 | 4,096万円 |
| 13連敗 | 8,191万円 | 1,809万円 | 8,192万円。用意できない |
したがって止まるのは、14回目に負けた後ではなく、14回目の賭けを置く前です。「残金がゼロ」「法的に破産した」とは違います。勝つたびに別口へ保管した利益があれば、それも残っています。それでも、同じ倍賭けの計画を続ける条件は満たせません。
約99.98%の勝率と、期待損益を同時に見る
1回の負け確率をq=19/37とします。13回すべて負ける確率は、独立という前提からqの13乗です。
- 13連敗:p=(19/37)の13乗 ≈ 0.0001726531=0.01726531%
- 13回以内に初めて勝つ:1−p ≈ 99.98273469%
端数を丸めた「99.98%」は、1セットで1万円を得る確率です。1回の勝負の勝率でも、長期間の総利益がプラスになる確率でもありません。
期待損益は、各結果にその確率を掛けて足したモデル上の平均です。単位を万円にそろえると、(1−p)×1+p×(−8,191)=1−8,192p ≈ −0.414374万円。円では約−4,144円になります。
毎回4,144円ずつ減るわけではありません。ほとんどのセットは1万円の利益になり、まれなセットで大きな損失になります。平均だけで安全性を判断できない一方、勝率だけを見ても損益の構造を見落とすことが、この例から分かります。
1セットを7,300回予定すると、事象も変わる
成功の利益を別口へ移し、賭け用資金と上限を固定しているので、停止するまでは各セットの条件が同じです。独立したセットをN回予定したとき、1回も13連敗に遭わない確率は(1−p)のN乗。その反対が、Nセットまでに最初の13連敗に遭う確率です。
初回の13連敗に遭う確率=1−(1−p)のN乗
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| 予定した期間 | 最大セット数N | その時点までに初回の13連敗に遭う確率 |
|---|---|---|
| 1日 | 1 | 約0.0173% |
| 1年 | 365 | 約6.1% |
| 5年 | 1,825 | 約27.0% |
| 10年 | 3,650 | 約46.8% |
| 20年 | 7,300 | 約71.6% |
式には丸める前のpを使っています。7,300セットの値は約71.6481%で、約72%と言い換えることもできます。分母となるのは、この同じ計画を始める仮想的な試行群です。失敗せずに過ごせた日数を7,300日で割った値ではありません。20年まで13連敗に遭わない確率は約28.4%で、このモデルにおける継続確率です。
また、1セットには1〜13回の勝負があります。「毎日1回だけ回して7,300回の間に13連敗する確率」は別問題です。連続する13回の窓は重なるので、同じ式へ7,300を入れるだけでは求まりません。
利益を再投資するなら、モデルを作り直す
13連敗で8,191万円を失っても、総資産の損益はその前に得た利益次第です。この計画で成功がkセットあった後に失敗すれば、開始時からの総損益はk - 8,191万円です。たとえば999セット成功した後なら、999−8,191=−7,192万円となります。
別口保管をやめて利益を賭け用資金に加えると、いずれ上限も変わり得ます。14回の負けに耐えるために必要な資金は2の14乗−1=16,383万円。初期1億円に6,383万円の利益を足せれば、その閾値に届きます。ただしそこまで失敗しないこと自体が条件です。
この場合、過去の利益や損失で賭けられる回数が変わります。13回上限の初回遭遇確率を、そのまま資金枯渇や最終損失の確率として使えません。再投資、途中の引き出し、賭け上限、停止規則を決めてから計算し直す必要があります。
見せ方の問題と、条件の変更を混ぜない
同じ1セットについて、利益側の約99.9827%と損失側の約0.0173%を示すのは、補い合う説明です。損失額を省略して利益だけ見せれば、判断材料が欠けます。一方、1セットと20年を比べたときは、期間と事象そのものを変えています。「同じ事実の言い換えだけで印象が変わった」とは言えません。
フレーミング効果の古典的研究は、同じ結果の分布を生存・死亡などの言葉で示すと、選択が変わり得ることを扱っています。Tversky & Kahneman(1981)の教室質問紙の結果から、「人間は必ず最近の利益を過大評価する脳の設計だ」とまで一般化しないようにします。
最近の成功だけが記録される、損失額が説明されない、取り返すための追加投入に上限がない。こうした状態は、本人の性格を診断しなくても点検できます。提示の仕方はフレーミング効果、撤退の難しさは次の人はなぜ辞められないのかにつながります。
仕事や日常では、確率より先に条件を書き出す
ルーレットの独立性や負け確率は、事業、広告、投資、人間関係にはそのまま当てはまりません。持ち帰れるのは、成功指標の外側も一緒に点検する方法です。
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| 場面 | 成功だけを見ると見落とすこと | 追加して書く条件 |
|---|---|---|
| 経営 | 売上増と入金時期は異なる | 支払いに必要な現金、余裕期間、撤退条件 |
| 広告 | 問い合わせ件数と利益は異なる | 対応費、成約、返品、追加予算の上限 |
| 投資を考える場面 | 小さな利益の回数だけでは損失額が見えない | 失える範囲と、借入を含む負担の構造 |
| SNS・キャリア・人間関係 | 続けた期間だけでは負担を評価できない | 時間、健康、信用への影響と見直す機会 |
これは各分野で同じ破滅確率があるという説明ではありません。とくに最大損失が分からない場合は、分からないままの範囲を明記し、追加投入を小さくする判断が必要になります。組織の継続条件は生き残る経営、破滅する経営でも扱います。
最小検証は、成功と停止を同じメモに置くこと
次に重要な判断をするとき、成功した場合の説明の横に、次の四つを書きます。
- 何を成功と数え、どこまでを1回の判断とするか。
- 失敗時に失う金額・時間・信用は何か。未確認の負担は何か。
- 追加投入の上限はいくらか。誰が上限変更を承認するか。
- いつ、何が起きたら止めるか。止めた後に何が残るか。
根拠のない「成功率80%」を埋める必要はありません。確率が分からなくても、失える範囲と継続に必要な条件は調べられます。これで判断の質が必ず上がると保証するものではありませんが、見落としている前提を他者と確認できる形にはできます。
AIに計算を手伝わせる場合も、単位、独立性、停止規則、利益の扱いを入力し、式と別の計算で照合します。AIが自然な説明を返したことは、モデルの正しさの証拠ではありません。何を守るか、どこで止めるかの責任まで計算へ預けないことが大切です。Methodでは、その判断を記録する考え方を扱っています。
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