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99.98%勝てても、続けられるとは限らない|マーチンゲールの確率と資金

2026年6月7日
最終更新: 2026年10月8日
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99.98%勝てても、続けられるとは限らない|マーチンゲールの確率と資金

2026年10月8日に確率の教科書資料とTversky・Kahnemanのフレーミング論文を再確認した。負けたら倍賭けるマーチンゲールは、有限資金では次の倍額を賭けられない局面が生じ、勝率の印象と継続可能性を分けて考える必要がある。記事の37区画、13回上限、1億円、1セットと7300セットの数値は独自モデルであり、実市場や人生の確率、利益保証の実測ではない。

99.98%勝てても、続けられるとは限らない

Human Insight #01 小さな成功を何度も得ることと、大きな失敗に耐えられること。その違いを、確率と資金の両側から考えます。

「約99.98%の確率で1万円を得る」と聞くと、損失の条件を後回しにしてしまうかもしれません。では、その反対側に「約0.0173%で8,191万円を失う」があるなら、どう判断するでしょうか。

この数字は、後で条件を固定する倍賭けのモデルから出ています。実際の成績でも必勝法でもありません。考えたいのは、成功の回数と、失敗したときに続けられる条件は別の情報だということです。

30秒で要点

  • 上限13回のモデルでは、1セットの利益は1万円か、損失8,191万円のどちらかになる。
  • 1億円から13連敗した後も1,809万円は残る。ただし次の8,192万円を賭けられず、同じ倍賭けは継続不能になる。
  • 成功益を別口に保管し条件を固定すると、7,300セットまでに初回の13連敗に遭う確率は約71.6%。資金がゼロになる確率とは違う。
  • 仕事へ持ち帰るのはゲームの確率ではなく、損失の大きさ、追加投入の上限、停止条件を一緒に見る問い。

倍にすれば取り戻せる、という説明の続き

マーチンゲール法という賭け方は、負けたら前の賭け金を倍にし、勝ったら初期額に戻す方法です。数学でいう確率過程の「マルチンゲール」と同じ名称で語られますが、この賭け方が利益を保証するという意味ではありません。Dartmouth公開の確率論教科書も、有限資金で次の倍額を用意できなくなる例を扱っています。

たとえば1万円、2万円、4万円と負けて、次の8万円で勝てたとします。勝ったときの純利益が賭け金と同額という条件なら、8−(1+2+4)=1万円が残ります。何回目で初めて勝っても、そこまで賭け続けられれば同じです。

問題は、その「賭け続けられれば」にあります。損失と次に必要な資金は、回数に比例せず倍々に増えます。

計算する前に、1セットの終わり方を固定する

以下は説明用の仮想モデルです。0を含む37区画が等確率で出るルーレットを想定し、18区画なら勝ち、残り19区画なら負けとします。各回は独立で、勝てば賭け金と同額の純利益、負ければ賭け金を失う条件です。

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条件このモデルで固定する内容
賭けに使う初期資金1億円=10,000万円
初回の賭け金1万円。負けるたびに倍
1セット最初の勝ち、または13連敗で終わる。最大13回
成功した後1万円の利益を別口へ保管し、賭け用資金は1億円に戻す
13連敗した後この計画を停止する。残金や別口の利益を追加投入しない
反復する期間毎日1セットを予定し、1年365日として最大20年。うるう日は省略

賭け金上限や手数料は加えません。実際のテーブル上限が低ければ、もっと早く倍賭けを止める必要があります。利益を再投資して上限を増やす方法は、後で別の条件として扱います。

13連敗で失う金額と、残る金額

初回から13回目までの賭け金を足すと、1+2+4+…+4,096=2の13乗−1=8,191万円です。13回目に負けた時点で、賭け用資金は10,000−8,191=1,809万円になります。

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連敗後累計損失残資金次の賭けに必要な額
10連敗1,023万円8,977万円1,024万円
11連敗2,047万円7,953万円2,048万円
12連敗4,095万円5,905万円4,096万円
13連敗8,191万円1,809万円8,192万円。用意できない
マーチンゲール法における13連敗までの資金推移1億円の初期資金から1万円起点で倍賭けし、連敗するたびに残資金が減少する。13連敗で累計8191万円を失い、次の賭け金を用意できない。02,5005,0007,50010,000倍賭け継続不能累計8,191万円損連敗回数(0=開始)残資金(万円)残資金累計損失
図1:初期1億円・1万円起点、1セット最大13回の資金推移。成功益は別口へ保管する固定モデル。青線は残資金、紫の帯は累計損失。13連敗で残金1,809万円となり、次の8,192万円を用意できず倍賭け継続不能となる。残金ゼロではない。

したがって止まるのは、14回目に負けた後ではなく、14回目の賭けを置く前です。「残金がゼロ」「法的に破産した」とは違います。勝つたびに別口へ保管した利益があれば、それも残っています。それでも、同じ倍賭けの計画を続ける条件は満たせません。

約99.98%の勝率と、期待損益を同時に見る

1回の負け確率をq=19/37とします。13回すべて負ける確率は、独立という前提からqの13乗です。

  • 13連敗:p=(19/37)の13乗 ≈ 0.0001726531=0.01726531%
  • 13回以内に初めて勝つ:1−p ≈ 99.98273469%

端数を丸めた「99.98%」は、1セットで1万円を得る確率です。1回の勝負の勝率でも、長期間の総利益がプラスになる確率でもありません。

期待損益は、各結果にその確率を掛けて足したモデル上の平均です。単位を万円にそろえると、(1−p)×1+p×(−8,191)=1−8,192p ≈ −0.414374万円。円では約−4,144円になります。

1セットの期待損益を円の共通軸で分解。成功時の寄与は約プラス9998円、13連敗時の寄与は約マイナス14142円で、合計は約マイナス4144円。実際の1セットでこの平均額を失うという意味ではない
図2:上限13回の仮想モデルの期待損益。棒は結果そのものの金額ではなく「確率×損益」の寄与を示す。大きな損失が低い確率でも、平均への寄与は小さくない。

毎回4,144円ずつ減るわけではありません。ほとんどのセットは1万円の利益になり、まれなセットで大きな損失になります。平均だけで安全性を判断できない一方、勝率だけを見ても損益の構造を見落とすことが、この例から分かります。

1セットを7,300回予定すると、事象も変わる

成功の利益を別口へ移し、賭け用資金と上限を固定しているので、停止するまでは各セットの条件が同じです。独立したセットをN回予定したとき、1回も13連敗に遭わない確率は(1−p)のN乗。その反対が、Nセットまでに最初の13連敗に遭う確率です。

初回の13連敗に遭う確率=1−(1−p)のN乗

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予定した期間最大セット数Nその時点までに初回の13連敗に遭う確率
1日1約0.0173%
1年365約6.1%
5年1,825約27.0%
10年3,650約46.8%
20年7,300約71.6%
20年間で初回の13連敗に遭う累積確率1セットは最大13回、成功益は別口保管。初回13連敗で停止する計画を毎日1セット予定した場合、初回遭遇確率は20年7,300セットで約71.6%。資産がゼロになる確率ではない。0%20%40%60%80%1年5年10年15年20年71.6%経過年数(毎日1セット)初回13連敗の累積確率p = (19/37)¹³ / 累積確率 = 1 − (1 − p)ᴺ
図3:初回の13連敗に遭う累積確率。1セット最大13回、成功益を別口へ保管し、初回13連敗で停止する固定モデル。各回の勝敗は独立。毎日1セットを予定し20年=7,300セットで約71.6%。資産がゼロになる確率ではない。

式には丸める前のpを使っています。7,300セットの値は約71.6481%で、約72%と言い換えることもできます。分母となるのは、この同じ計画を始める仮想的な試行群です。失敗せずに過ごせた日数を7,300日で割った値ではありません。20年まで13連敗に遭わない確率は約28.4%で、このモデルにおける継続確率です。

また、1セットには1〜13回の勝負があります。「毎日1回だけ回して7,300回の間に13連敗する確率」は別問題です。連続する13回の窓は重なるので、同じ式へ7,300を入れるだけでは求まりません。

利益を再投資するなら、モデルを作り直す

13連敗で8,191万円を失っても、総資産の損益はその前に得た利益次第です。この計画で成功がkセットあった後に失敗すれば、開始時からの総損益はk - 8,191万円です。たとえば999セット成功した後なら、999−8,191=−7,192万円となります。

別口保管をやめて利益を賭け用資金に加えると、いずれ上限も変わり得ます。14回の負けに耐えるために必要な資金は2の14乗−1=16,383万円。初期1億円に6,383万円の利益を足せれば、その閾値に届きます。ただしそこまで失敗しないこと自体が条件です。

この場合、過去の利益や損失で賭けられる回数が変わります。13回上限の初回遭遇確率を、そのまま資金枯渇や最終損失の確率として使えません。再投資、途中の引き出し、賭け上限、停止規則を決めてから計算し直す必要があります。

見せ方の問題と、条件の変更を混ぜない

同じ1セットについて、利益側の約99.9827%と損失側の約0.0173%を示すのは、補い合う説明です。損失額を省略して利益だけ見せれば、判断材料が欠けます。一方、1セットと20年を比べたときは、期間と事象そのものを変えています。「同じ事実の言い換えだけで印象が変わった」とは言えません。

フレーミング効果の古典的研究は、同じ結果の分布を生存・死亡などの言葉で示すと、選択が変わり得ることを扱っています。Tversky & Kahneman(1981)の教室質問紙の結果から、「人間は必ず最近の利益を過大評価する脳の設計だ」とまで一般化しないようにします。

最近の成功だけが記録される、損失額が説明されない、取り返すための追加投入に上限がない。こうした状態は、本人の性格を診断しなくても点検できます。提示の仕方はフレーミング効果、撤退の難しさは次の人はなぜ辞められないのかにつながります。

仕事や日常では、確率より先に条件を書き出す

ルーレットの独立性や負け確率は、事業、広告、投資、人間関係にはそのまま当てはまりません。持ち帰れるのは、成功指標の外側も一緒に点検する方法です。

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場面成功だけを見ると見落とすこと追加して書く条件
経営売上増と入金時期は異なる支払いに必要な現金、余裕期間、撤退条件
広告問い合わせ件数と利益は異なる対応費、成約、返品、追加予算の上限
投資を考える場面小さな利益の回数だけでは損失額が見えない失える範囲と、借入を含む負担の構造
SNS・キャリア・人間関係続けた期間だけでは負担を評価できない時間、健康、信用への影響と見直す機会

これは各分野で同じ破滅確率があるという説明ではありません。とくに最大損失が分からない場合は、分からないままの範囲を明記し、追加投入を小さくする判断が必要になります。組織の継続条件は生き残る経営、破滅する経営でも扱います。

最小検証は、成功と停止を同じメモに置くこと

次に重要な判断をするとき、成功した場合の説明の横に、次の四つを書きます。

  1. 何を成功と数え、どこまでを1回の判断とするか。
  2. 失敗時に失う金額・時間・信用は何か。未確認の負担は何か。
  3. 追加投入の上限はいくらか。誰が上限変更を承認するか。
  4. いつ、何が起きたら止めるか。止めた後に何が残るか。

根拠のない「成功率80%」を埋める必要はありません。確率が分からなくても、失える範囲と継続に必要な条件は調べられます。これで判断の質が必ず上がると保証するものではありませんが、見落としている前提を他者と確認できる形にはできます。

AIに計算を手伝わせる場合も、単位、独立性、停止規則、利益の扱いを入力し、式と別の計算で照合します。AIが自然な説明を返したことは、モデルの正しさの証拠ではありません。何を守るか、どこで止めるかの責任まで計算へ預けないことが大切です。Methodでは、その判断を記録する考え方を扱っています。

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