「AIに向いている仕事」を測っても「誰が使うか」は当たらない|露出スコアと採用率を分けて読む
社内でAI活用を進めるとき、「どの職種・業務がAIに向いているか」から計画を立てるのは自然な発想です。「AIに置き換えられる仕事」のランキングや、職種ごとの「AI露出スコア」を参照して、効果が出そうな部署から展開する。筋の通った進め方に見えます。
ところが実際に展開してみると、同じ部署、同じ職種の中で、毎日使う人とまったく使わない人に分かれることがあります。向いている仕事のはずなのに、なぜ使う人と使わない人が分かれるのか。
この記事では、セントルイス連銀(米国の地区連邦準備銀行の一つ)のワーキングペーパー(査読前の研究論文)を手がかりに、「この仕事はAIに向いているか」と「この人がAIを使うか」が別の問いであることを、データの構造から整理します。
30秒で要点
- 露出スコアは「その仕事が技術的にAIの影響を受けやすいか」の推計で、実際の利用を測ったものではない
- 米国の調査データでは、生成AIの採用は「広いが浅い」。多くの職種・タスクで使われているが、ほとんどで利用者は半数に届かない
- 露出スコアは職種間・タスク間の採用率の差を一部しか説明しない(職種間で5〜53%、タスク間で7〜44%)
- そもそも職種は、個人が仕事でAIを使うかどうかのばらつきの20%未満しか説明しない。職種ランキングで個人の利用は当たらない
- 活用の設計は「どの仕事か」に加えて「同じ仕事の中で誰が使い、誰が使っていないか」を観察するところから始める
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 露出スコア | ある職種やタスクが、技術的に生成AIの影響を受けやすい度合いを研究者が推計した指標。実際に使われているかは測っていない |
| 採用率 | 実際に生成AIを使っていると答えた人の割合(定義は本文で説明) |
| タスク | 職種を構成する個々の作業。本研究では米国労働省系の職業情報データベース(O*NET)の作業区分を使用 |
| 説明力 | ある指標が、結果のばらつきのうちどれだけを言い当てられるかの割合 |
取り上げる研究は何を測ったのか
扱うのは、セントルイス連銀のワーキングペーパー 2026-017「What Work Does Generative AI Do?」(Alexander Bick, Adam Blandin, David J. Deming, Tyler R. Schumacher)です(DOI: 10.20955/wp.2026.017、初版2026年4月27日、現行版2026年8月25日)。2026年9月1日には同連銀のサイトに解説記事も公開されています。
研究チームは、米国の労働者を対象にしたオンライン調査「Real-Time Population Survey」の4回分(2025年8月・11月、2026年2月・5月)を使い、職種単位・タスク単位で生成AIの採用率を作りました。各回はおよそ5,000人規模で、人口構成に合わせて重み付けされています。
採用率の作り方は次のとおりです。回答者に、自分の職種で重要な10個のタスクを示し、普段行っているものを選んでもらう。そのうえで、どのタスクに生成AIを使ったかを尋ねます。
- タスク単位の採用率: 分母は「そのタスクを普段行っていると答えた労働者」、分子は「そのタスクに生成AIを使ったと答えた人」。単位は%
- 個人レベルの利用: 「仕事で生成AIを使っているかどうか」の2択
なお、この測り方は回答者が自覚している利用しか捉えないため、著者は推定値を採用の「下限」と解釈しています。
同じ論文は全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー 35677 としても公開されており、AIモデルの選び方を扱った「最強のモデル」は「最良のアシスタント」ではないでも、「広く、浅い」採用の状態として触れています。本記事では、その中身のうち「露出スコアと実際の採用のずれ」に焦点を当てます。
採用は「広いが浅い」
最初に押さえておきたいのは、採用の全体像です。
- 8割を超える職種、4割を超えるタスクで、採用率が20%を超えている
- 一方で、採用率が70%を超える職種は約6分の1にとどまる
- タスクで見ると、採用率が50%を超えるのは2.8%で、70%を超えるタスクは一つもない
つまり、生成AIはさまざまな仕事で使われているものの、ほとんどの職種・タスクの中で、使っている人は半数に届いていない。論文の要旨は、似た仕事をしている人のあいだに大きなばらつきがあることから、「誰が採用するか」の理解は「どのタスクを助けるか」の理解と同じくらい重要になりうる、と述べています。
露出スコアは、どこまで当たっていたか
では「AIに向いている仕事」の予測は、実際の採用をどこまで言い当てていたのでしょうか。研究は、既存の複数の露出スコアと実測の採用率を突き合わせています。
職種・タスクの「順位」は、一部しか当たらない
露出スコアが説明できたのは、職種間の採用率の差の5〜53%、タスク間の差の7〜44%でした。幅が大きいのは、露出スコアが一種類ではなく、研究者ごとに作り方が異なり、指標によって説明力が大きく違うためです。
予測と実測が大きく食い違った職種もあります。
| 職種 | 実測の採用率 | 露出スコアによる予測 |
|---|---|---|
| 医療秘書・事務補助 | 16.8% | 61.0% |
| 受付・案内係 | 7.6% | 54.0% |
| コンピュータ・事務機器修理工 | 75.7% | 36.0% |
| 特別支援教育の教員 | 70.9% | 38.6% |
予測より使われていない職種について、著者は、技術スキルが控えめである可能性や、コンプライアンス・データ保護の壁に直面している可能性を挙げています。逆に予測より使われている職種については、仕事の裁量の大きさを可能性として挙げています。いずれも「可能性」であり、原因が確かめられたわけではありません。
個人が使うかどうかは、職種ではほとんど決まらない
この研究で最も実務に響くのは、次の結果です。
個人が仕事で生成AIを使うかどうかのばらつきのうち、職種で説明できるのは20%未満でした。職種ごとの違いをすべて考慮に入れても、残りの8割以上は同じ職種の中の個人差として残る、ということです。
ここでの「説明力」の指標は、統計でいう調整済み決定係数(adjusted R²)です。大まかには、分母が「個人ごとの利用の有無のばらつき全体」、分子が「その指標で言い当てられたばらつき」で、そこに説明に使った変数の数に応じた補正を加えた値です。通常は0〜1(%に直すと0〜100%)の範囲で読みます。職種そのものの値は0.176、代表的な2つの露出スコアはそれぞれ0.081と0.086でした。露出スコアは、職種で説明できる分のうち半分弱しか拾えていないことになります。
そのため著者は、職種単位の露出スコアは、個人が使うかどうかに対しては「弱い予測力しか持たない」と結論しています。
なぜ「向いている仕事」から「使う人」を予測してしまうのか
この取り違えは、読み手の不注意というより、問いの形が似ていることから起こります。
1つ目は、「できる」と「する」が同じ言葉で語られることです。露出スコアが測っているのは、その仕事にAIが技術的に関われるかどうか(できるか)です。ところが「AIに向いている仕事」と言い換えた瞬間、「その仕事の人はAIを使うはずだ」(するはず)という読み方が自然に混ざります。
2つ目は、集団の性質を個人に当てはめてしまうことです。「この職種は露出が高い」は職種という集団についての記述です。それを「この職種のAさんは使うだろう」と個人に当てはめるのは、統計で「生態学的誤謬」(集団単位のデータから個人の性質を推し量ってしまう誤り)と呼ばれる読み違えにつながります。職種が個人の利用の20%未満しか説明しないという結果は、この読み違えがどれほど大きくずれうるかを数字で示しています。
3つ目は、ランキングは計画に落としやすいことです。「上位の職種から展開する」という計画は説明しやすく、承認も得やすい。一方で「同じ部署の中で誰が使っていないかを観察する」という作業は地味で、計画書の形になりにくい。落としやすい方に判断が寄っていきます。
経験が長い人ほど、使う範囲が広い
もう一つ、活用の設計に関わる結果があります。
少なくとも1つのタスクで生成AIを使っている人のうち、6か月以上前から使っている人は、現在0.4個多くのタスクで使っていました。論文は、平均的な労働者が行うタスク数(4.7個)に対して約9%にあたると説明しています。著者はこれを、最初に使い方を覚えるコストを払えば、その後は他の用途に広げやすくなるという「学習」の仕組みと整合的だと解釈しています。
ただし著者自身が、この解釈の最大の弱点も挙げています。6か月以上前から使っている人は、もともとAIを使う傾向が強い人たちだった可能性がある、という点です。つまり「経験を積んだから広がった」のか「もともと広げる人が早く始めた」のかは、この結果だけでは区別しきれません。
ここから先は仮説です。使い方を覚える機会を社内で配れば、利用が広がるのではないか。この研究は米国の横断的な調査データに基づいており、機会を配ったときにどうなるかを実験したものではありません。社内で試す価値のある仮説として置いておくのが妥当です。
確かなことと、まだ確かではないこと
確かなこと(論文と解説記事の記載による):
- 米国の調査データでは、生成AIの採用は多くの職種・タスクに広がっているが、ほとんどで利用者は半数未満
- 露出スコアは職種間・タスク間の採用率の差を一部しか説明せず、説明力は指標によって大きく異なる
- 職種は、個人が仕事で生成AIを使うかどうかのばらつきの20%未満しか説明しない
- 経験6か月以上の利用者は、現在0.4個多くのタスクで使っている
まだ確かではないこと:
- 同じ職種の中で、何が使う人と使わない人を分けているのか。本記事ではこの点についての結果を取り上げていない
- 予測と実測が食い違った職種で、何がずれを生んだのか。著者が挙げているのは可能性まで
- 使い方を覚える機会を配れば利用が広がるのか。介入の効果は検証されていない
- 日本の職場でも同じ構造があるのか。データは米国のもの
活用を設計するときに分けておきたい2つの問い
AI活用の計画を立てるときは、「どの仕事に向いているか」と「誰が使っているか」を別々の問いとして持つこと。
- 「どの仕事に向いているか」 は、展開する業務の候補を絞るために使う。露出スコアや職種ランキングはこの問いには一定の手がかりになる
- 「誰が使っているか」 は、同じ業務の中の個人差を見るために使う。この問いに職種ランキングはほとんど答えない。観察するしかない
前者だけで計画を立てると、「向いている部署に展開したのに使われない」という結果を、ツールや本人のやる気の問題として処理してしまうおそれがあります。後者の問いを最初から持っておけば、同じ部署の中で使っている人の使い方を、使っていない人に渡すという打ち手が見えてきます。
AI導入率の数字を引用するときの注意点は中小企業のAI導入率は20%なのか12%なのかで、「任せる」と「採る」を分けて考える視点は「AIに任せる」と「AIの答えを採る」は別の判断で扱っています。
自分でも試せる、最小の検証
同じ職種の人が3人以上いる部署を1つ選び、次の2つを一人ずつ聞いてみてください。
- 普段の業務のうち、主なものを5つ挙げると何か
- そのうち、この1か月で生成AIを使ったものはどれか
結果を「人 × 業務」の表にして、○(使った)と×(使っていない)を埋めます。同じ業務の列で○と×が混ざっていれば、その業務は「向いていない」のではなく「使っている人と使っていない人がいる」状態です。その列で○の人に使い方を話してもらうことが、ランキングを眺めるより具体的な次の一手の候補になります。
この記事で扱ったような判断を、自社の状況に照らして整理したい場合は、無料診断ツールで状況を言語化するところから始めることができます。
状況を整理する(15分)