コンサルは本当に効果があるのか?初の大規模実証研究が示したこと
「コンサルタントに払う金額に見合う効果は、本当にあるのだろうか」。この問いを一度も持ったことのない経営者は、おそらくいません。にもかかわらず、この問いに正面から答えるデータは、驚くほど少なかった。個々の成功談や失敗談は無数に語られても、業界全体を対象にした体系的な検証は、長らく存在しなかったからです。
2025年7月、この空白に踏み込む研究がNBER(全米経済研究所)から公開されました。使われたのはベルギーの企業間取引データ、22年分。コンサルティングを受けた企業と受けなかった企業を、税務データという動かしがたい記録から比較するという、これまでにない規模と精度の検証です。
結果は、単純な「効果あり」でも「効果なし」でもありませんでした。データが描き出したのは、もっと具体的で、もっと留保のいる像です。この記事では、First byte自身がコンサルティングという業態を営む立場から、この研究が示したことと、まだ示していないことを分けて整理します。
30秒で要点
- NBERワーキングペーパー(Bijnens・Jäger・Schoefer, 2025)が、ベルギーの企業間取引データ22年分を用いて、コンサルティングの効果を初めて体系的に検証した
- コンサル利用は大企業・高生産性企業に偏るが、全要素生産性・収益性で見ると利用企業はU字型に分布し、業績が芳しくない企業も一定数コンサルを利用している
- 効果はもともと生産性が低かった企業ほど大きく出ており、資源配分を立て直す道具として機能した可能性を示す
- 生産性向上は雇用のわずかな減少と売上の維持・成長によって生まれており、平均賃金は2.7%上昇、労働分配率に低下は見られない(ただし雇用者数自体は微減している)
用語を先に確認する
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 差分の差分法(DID) | コンサルを導入した企業と導入しなかった企業の変化幅を比較し、導入の効果だけを取り出そうとする統計手法 |
| 全要素生産性(TFP) | 労働力・資本設備の投入量だけでは説明できない、企業の生産効率の高さを表す指標 |
| レントシフト仮説 | コンサルティングは新しい価値を生んでおらず、労働者の取り分など既存の利益を企業側に移し替えているだけだ、とする懐疑的な見方 |
| 労働分配率 | 企業が生み出した付加価値のうち、人件費として労働者に配分される割合 |
| 配分効率性(allocative efficiency) | ヒト・モノ・カネといった経営資源が、より生産性の高い使い方に振り向けられている度合い |
何が、どうやって検証されたのか
この研究が使ったのは、ベルギーの付加価値税(VAT)記録に基づく企業間取引データです。2002年から2023年までの22年分、企業同士がいつ・誰と・どれだけ取引したかを網羅的に追跡できるという、他国では再現しにくい規模のデータになっています。
研究チームはこのデータから、企業が特定の時点でコンサルティング会社と取引を始めた「導入イベント」を特定し、差分の差分法という手法で検証しました。考え方はシンプルです。コンサルを導入した企業の業績変化と、導入していない似た企業の業績変化を比べ、その差分をコンサル導入による効果とみなします。単純に「コンサルを使った企業は業績が良い」と比較するだけでは、もともと業績の良い企業がコンサルを選びやすいという逆方向の要因を排除できません。差分の差分法は、この「もともとの違い」を差し引くための工夫です。
誰がコンサルを使い、どこで効果が大きく出たか
まず確認されたのは、コンサルティングを利用する企業の実像です。取引全体で見ると、コンサル利用は大企業・すでに労働生産性の高い企業に偏って集中しています。予算に余裕があり、変化に投資できる体力のある企業がコンサルを使いやすい、という直感とおおむね一致する結果です。
ただし、全要素生産性や収益性という切り口で利用企業を分布として見ると、様子が変わります。業績の高い企業だけでなく、業績が芳しくない企業も一定数コンサルを利用しており、分布はU字型を描きます。好調な企業はさらに伸ばすために、不調な企業は立て直すために、それぞれ異なる動機でコンサルを使っている構図が浮かび上がります。
そして、効果の大きさを業績別に分解すると、もともと生産性が低かった企業ほど、コンサル導入後の生産性の伸びが大きいことがわかりました。論文はこれを、経営資源の配分効率性が改善したことを示唆するものと解釈しています。コンサルティングは、すでに優れた企業をさらに一段伸ばす道具である以上に、立ち遅れた企業の資源配分を立て直す道具として機能した可能性が高い、ということです。
生産性はどうやって上がったのか、そしてレントシフト仮説はどうなったか
コンサルの効果を巡る懐疑論の中心にあるのが、レントシフト仮説です。コンサルティングは新しい価値を生んでいるのではなく、労働者の賃金を切り詰めたり、既存の利益を移し替えたりしているだけではないか、という見方です。
この研究が報告した数字は、この懐疑論とは整合しにくいものでした。労働生産性は5年間で3.6%上昇し、その内訳は雇用のわずかな減少(解雇率のわずかな上昇)と、売上の維持・成長の組み合わせによって説明されています。同時に、平均賃金は2.7%上昇し、企業が生み出した付加価値のうち人件費に回る割合(労働分配率)には低下が見られませんでした。もし生産性向上が労働者の取り分を削ることで生まれていたなら、労働分配率は下がるはずです。実際にはそうなっていません。
ここで一つ、区別しておくべき点があります。「誰も職を失わない生産性向上だった」わけではありません。雇用者数自体はわずかに減少しています。示されたのは、「労働者に残った人の賃金を犠牲にする形」ではなく「雇用の小さな調整と業務の効率化によって」生産性が上がった、という像です。労働者の取り分が搾り取られたのではないという点と、雇用への影響がゼロだったという点は、分けて理解する必要があります。
確かなことと、まだ確立していないこと
ここで一度、何が確かで何がまだ確かでないかを分けておきます。
確かなこと
- ベルギーの企業間取引データ22年分を用いた差分の差分法による分析で、コンサル導入企業の労働生産性は5年間で平均3.6%上昇したと報告されている
- 同じ分析で、平均賃金は2.7%上昇し、労働分配率に低下は見られなかったと報告されている
- コンサル導入後の生産性向上は、もともと生産性が低かった企業でより大きく出ていたと報告されている
まだ確立していないこと
- 本稿執筆時点でこの研究は2025年7月公開のNBERワーキングペーパーであり、査読を経た学術誌への正式掲載は確認できていない
- 検証対象はベルギー1カ国・特定の22年間に限られており、他の国・他の時代・他の景気局面でも同じ結果が再現されるかは確認されていない
- 対象は主に戦略・経営コンサルティングであり、日本の中小企業向けの支援やWeb制作寄りの支援サービスに、同じ構造の効果があるとは限らない
- 「配分効率性が改善した」という解釈は、観測されたデータと整合的な説明の一つであり、唯一の説明として確定しているわけではない
なぜ「コンサルは価値を生まない」という見方が根強いのか
これだけの結果が出ても、「結局コンサルは高いだけ」という感覚から離れにくい人は少なくありません。ここにはいくつかの心理的な要因が働いていると考えられます。
まず、個別の失敗エピソードのほうが記憶に残りやすいという事情があります。「高額なコンサル料を払ったのに何も変わらなかった」という話は具体的で語りやすく、広まりやすい一方、体系的な統計データが示す穏やかな平均的効果は、物語として消費されにくい性質を持っています。目立つ失敗例の記憶が、実際の発生頻度以上に判断へ影響を与えてしまうことは、統計的思考の分野でよく指摘される傾向です。
次に、費用を支払う側の情報の非対称性があります。コンサルティングの成果は、コンサルを入れなかった場合と比較して初めて測定できるものですが、発注企業はその「もう一つの世界」を直接観測できません。結果が芳しくなかったとき、それがコンサルの質の問題なのか、そもそも構造的に困難な課題だったのかを、発注側だけでは切り分けにくい構造があります。
そして、コンサルティング業界自体が生む不信もあります。成果を明確に定義せず契約する慣行や、専門用語を多用して検証を難しくする進め方が一部に存在することは事実であり、こうした経験が「コンサル全般は価値を生まない」という一般化につながりやすくなっています。
これらはいずれも、統計的な傾向とは別の水準で働く心理的な作用です。今回のような体系的な実証データは、こうした心理的な作用を打ち消すものではありませんが、少なくとも「平均的にはどうなのか」という問いに、個別の物語とは別の答えを与えてくれます。
判断軸の提示:「何を期待して使うか」を先に決める
この研究が示した像を踏まえると、コンサルティングの活用を検討する際に置きたい判断軸が見えてきます。それは、コンサルに何を期待するかを、成長加速なのか立て直しなのかで先に区別する、という視点です。
- すでに一定の業績があり、さらに伸ばしたい局面なのか
- 生産性や収益性に伸び悩みがあり、資源配分を立て直したい局面なのか
今回の研究では、後者の局面にある企業でより大きな効果が観測されています。「コンサルを入れれば急成長する」という期待で臨むと、平均的な効果の大きさとの間にギャップが生まれやすくなります。逆に、「今の資源配分のどこかに歪みがあり、それを外部の目で見直したい」という目的であれば、今回のデータが示す効果の構造と目的が近くなります。
自分の判断でも試せる、最小の検証
大掛かりな分析をしなくても、自社がどちらの局面にいるかを言語化する最小の一歩があります。
まず、自社が今検討しているコンサル活用の目的を、「立て直し」目的か「成長加速」目的かのどちらかに、一言で書き出してみます。次に、その目的に対して、何をもって効果があったと判断するかを1つだけ決めます。たとえば「立て直し」目的であれば、分母を導入前6カ月の平均粗利、分子を導入後6カ月の平均粗利とし、その比率の変化を効果の物差しにする、といった形です。
これは学術的な測定手法をそのまま再現したものではなく、簡易的な自己点検です。ただし、目的と物差しを先に決めておくことで、コンサル導入後に「なんとなく良かった気がする」で終わらせず、次回同じ判断をする際の材料として記録が残ります。
コンサルという言葉と、どう付き合うか
「コンサルは価値を生まない」という理解も、「コンサルを入れれば必ず伸びる」という理解も、どちらも今回のデータが示した像より単純化されすぎています。効果は平均的には確認されていますが、その効果はもともと業績が低かった企業でより大きく、雇用の小さな調整を伴い、査読前のワーキングペーパー1本による検証という留保も付いています。
因果関係の全体像はまだ確立していません。しかし、因果の証明を待たなくても、自社が今のコンサル活用に何を期待していて、その期待をどう測るつもりかを言語化することは、この場で始められます。「効果があるかないか」を問う前に、「何に対する効果を期待しているか」を言葉にする。それが、この記事で置いている立場です。
判断の土台として押さえておくこと
- コンサルの効果は平均的には確認されているが、万能ではない:ベルギーの実証研究では労働生産性が5年で平均3.6%上昇したと報告されているが、査読前のワーキングペーパー1本による検証である
- 効果はもともと生産性が低かった企業でより大きい:急成長中の優良企業をさらに伸ばす道具というより、資源配分を立て直す道具として機能した可能性が高い
- 賃金は上昇し労働分配率も維持されたが、雇用は微減している:「レントシフトではない」ことと「誰も職を失わない」ことは別の主張であり、混同しないことが必要
次の一手:なぜコンサルタントの話は、難しく聞こえるのか/コンサルティング(コンサルタント)とは?超初心者向け完全ガイド/Webコンサルに依頼して失敗する会社の共通点
この記事で扱わなかったこと
コンサルティング会社の選び方や契約時の交渉術、具体的な成果報酬の設計方法には、この記事では踏み込んでいません。扱ったのは、コンサルティング業界全体を対象にした初の体系的な実証データが何を示し、何をまだ示していないかを整理し、自社が期待する効果を先に言語化するという考え方です。個別の発注判断は、この前提を踏まえたうえでの、また別の検討事項として切り分けています。
この記事で扱ったような、コンサルティング活用の目的を自社の状況に照らして整理したい場合は、無料診断ツールで状況を言語化するところから始めることができます。
状況を整理する(15分)