「生成AIの利用率が1年で倍増した」。令和8年版の情報通信白書が公表されたあと、この形の引用をいくつか見かけました。根拠として挙がる数字は、個人向け調査の26.7%と58.8%です。
数字は正しいものです。白書の本編にも、図表データのCSVにも、この2つの値が入っています。
ただし、白書の注記にはこう書かれています。「2023年度調査・2024年度調査では、調査対象の年齢を20歳以上としていたが、2025年度調査では、新たに15歳~19歳を調査対象に加えている。2025年度調査において、20歳以上の利用率は52.2%であった。」
つまり、26.7%と58.8%は、対象範囲が違う2つの数値です。前年と同じ条件(20歳以上)で並べられるのは52.2%で、増加幅は32.1ポイントではなく25.5ポイントになります。
本稿は、この1つの注記を起点に、公表された統計を引くときに何を確認すべきかを整理します。白書が誤っているという話ではありません。52.2%も58.8%も定義どおりの正しい値で、変更は白書自身が開示しています。扱うのは、正しい2つの値のうちどちらをどの場面で使うか、という判断です。
扱わないのは、生成AIの使い方の適否や利用の質に関する評価です。この設問が測っているのは経験の有無だけです。また、企業を対象にした調査の数値もここでは扱いません。母集団が違うため、同じ文脈に置くと別の誤読を生みます。
30秒で要点
- 個人向け調査の利用経験率は2023年度9.1%、2024年度26.7%、2025年度58.8%と公表されている
- 2025年度調査から15歳〜19歳が対象に加わっており、前年と同条件(20歳以上)の値は52.2%である
- 同条件で並べた増加幅は+25.5ポイント。+32.1ポイントは対象範囲の違いを含んだ数字である
- 公表の「全体」値は年代別の単純平均に一致する。人口構成で重み付けした推計ではない
- 国際比較の結論(日本が最も大きく増加)は同条件値に置き換えても反転しない。ただし他3か国の同条件値は公表されていない
この記事で使う言葉の意味
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| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 利用経験率 | ここでは「業務や日常生活において生成AIサービスを一つでも使ったことがあるか」に該当する回答をした人の数(分子)を、有効回答数(分母)で割った比率。現在使っている人の比率ではない |
| ポイント(pt) | 比率そのものの差を表す単位。26.7%から58.8%への変化は「32.1ポイントの増加」であり、「32.1%の増加」ではない(後者なら26.7×1.321=35.3%になる) |
| 有効回答数 | 分析に使われた回答の件数。この調査では日本1,236件、米国・ドイツ・中国が各624件 |
| 均等割り付け | 回答者を集めるときに、年代や性別ごとの件数をあらかじめ同数に揃える抽出方法 |
| 単純平均 | 各区分の値を、区分ごとの人数で重み付けせずそのまま足して区分数で割った平均 |
公表されている3つの数字
まず、白書が公表している値を並べます。何らかの生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」と回答した日本の割合です。
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| 調査 | 利用経験率 |
|---|---|
| 2023年度調査 | 9.1% |
| 2024年度調査 | 26.7% |
| 2025年度調査 | 58.8% |
本編の記述は「何らかの生成AIサービスを『使っている(過去使ったことがある)』と回答した割合は、日本において58.8%であった。前年度の個人向けアンケート調査(中略)26.7%であったことを踏まえると、生成AIサービスの利用経験率は、この1年間で大きく上昇していることがわかる」という形です。図表Ⅰ-1-1-1として掲載され、図表データのCSVにも3年分の値が機械可読形式で入っています。
ここで注意しておく点が1つあります。設問は「一つでも使ったことがあるか」です。経験の有無を測っており、現在の利用者比率でも、使用頻度でもありません。「利用率」という短い呼び方をすると、この区別が落ちます。
2025年度調査から15歳〜19歳が加わっている
冒頭に引いた注記が、概要資料の該当図の下に置かれています。58.8%という値に「※」が付き、図の下でこう説明されています。
本編にも同趣旨の記述があります。つまり、変更は開示されています。「白書が隠していた」という読み方はできません。※ 2023年度調査・2024年度調査では、調査対象の年齢を20歳以上としていたが、2025年度調査では、新たに15歳~19歳を調査対象に加えている。2025年度調査において、20歳以上の利用率は52.2%であった。
ただし、開示の置き場所には差があります。概要資料では図の直下の注記です。本編では、注記相当の記述が図のキャプション脚注ではなく節末の独立した段落に置かれており、58.8%と26.7%を並べる本文のほうには「※」が付いていません。
開示されているかどうかと、読む人の目に入るかどうかは別の問題です。前年比を述べる文を読んで数字を書き写す動作だけでは、節末の段落までたどり着かないことがあります。本稿が確認したのは、開示の有無ではなく距離の違いだけです。
同条件で並べると、+32.1ではなく+25.5ポイント
数字を整理します。
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| 比較 | 2024年度 | 2025年度 | 差 |
|---|---|---|---|
| 公表値どおり(対象範囲が異なる) | 26.7% | 58.8% | +32.1ポイント |
| 同条件(20歳以上) | 26.7% | 52.2% | +25.5ポイント |
どちらも正しい数字です。違いは何と何を比べているかです。
- +32.1ポイントは、「2024年度の調査設計で得た値」と「2025年度の調査設計で得た値」の差です。設計が変わっているので、変化のうちどれだけが実際の普及で、どれだけが対象範囲の拡大によるものかを分けられません
- +25.5ポイントは、どちらも20歳以上に揃えた差です。対象範囲の違いが入らない代わりに、15歳〜19歳の実態は視野から外れます
使い分けの基準は単純です。前年比の変化幅を語るなら+25.5ポイント、2025年度時点の広がりを語るなら58.8%。この2つを混ぜて「1年で32.1ポイント増えた」と書くと、同条件の伸び(+25.5ポイント)と対象範囲の拡大による差(58.8−52.2=6.6ポイント)が、1つの数字に畳まれたまま伝わります。
なお、テキスト生成AIサービスに限った値でも同じ構造です。日本の利用経験率は2024年度調査24.0%から2025年度調査55.0%ですが、こちらはテキスト生成に限った20歳以上の値が公表されていません。したがって同条件での比較は、読者の側では作れません。
公表の「全体」は、人口構成の重み付けではない
もう一つ、この調査の設計から読み取れる論点があります。
概要資料の調査概要には、こう書かれています。「調査方法:インターネットアンケート調査/調査期間:2026年1月~2026年2月/対象:アンケート調査会社が保有するモニターから、年齢と性別が偏らないように抽出(均等割り付けを実施)/有効回答数:日本 1,236件 米国・ドイツ・中国 各624件」。
同じページの表は、日本の1,236件が10歳代から60歳代の各年代に206件ずつ配分されていることを示しています。そして注記に「※2 登録モニターにおけるサンプル数確保の観点から、15歳未満及び70歳代以上は対象外となった。」とあります。15歳未満が対象外なので、10歳代の枠は実質的に15歳〜19歳です。
年齢階層別の利用経験率は、次のとおりです。
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| 年齢階層 | 利用経験率 |
|---|---|
| 15歳〜19歳 | 91.7% |
| 20歳〜29歳 | 78.2% |
| 30歳〜39歳 | 56.3% |
| 40歳〜49歳 | 49.0% |
| 50歳〜59歳 | 44.2% |
| 60歳〜69歳 | 33.5% |
| 全体 | 58.8% |
ここで、公表値から計算を1つしてみます。
- 20歳以上の5区分の単純平均:(78.2+56.3+49.0+44.2+33.5)÷5 = 52.24
- 15歳〜19歳を含む6区分の単純平均:(91.7+78.2+56.3+49.0+44.2+33.5)÷6 = 58.82
四捨五入すると、公表値の52.2%と58.8%に一致します。概要資料は「原則として、表示単位未満を四捨五入により処理して表記しているため、内訳と合計等、計が一致しないことがある」と断っており、この一致は丸めの範囲内に収まっています。
これは白書が明記している計算ではなく、公表値から再現した算術です。白書が重み付けの有無を明記しているわけではありません。ただ、各年代206件という均等割り付けの設計と、この一致は整合します。
ここから出てくる帰結が、実務では大きいところです。「全体58.8%」は、日本の人口構成を反映した推計値として作られていません。年代ごとの回答数が同数なので、人口の少ない年代も多い年代も同じ重みで入ります。15歳〜19歳の91.7%は、206件分の重みで全体値に効いています。
したがって「日本人の58.8%が生成AIを使ったことがある」という読み方は、この調査の設計を越えています。言えるのは「15歳から69歳までを各年代同数で集めたモニター調査で、58.8%が経験ありと答えた」までです。
2024年度調査の年代別の割り付けについては、概要・本編・図表データ一覧のいずれにも記載がありませんでした。だから「26.7%も年代別の単純平均である」とは書けません。上の算術で確認できたのは2025年度についてだけです。
国際比較の結論は、同条件値に置き換えても反転しない
国際比較の節では、4か国の値が並びます。2025年度調査では日本58.8%、米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%です。前年比較の図表データからは、次の変化幅が出ます。表が収まらない場合は、横にスクロールできます
| 国 | 2024年度 | 2025年度 | 差 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 26.7% | 58.8% | +32.1ポイント |
| 米国 | 68.8% | 75.6% | +6.8ポイント |
| ドイツ | 59.2% | 75.6% | +16.4ポイント |
| 中国 | 81.2% | 93.6% | +12.4ポイント |
白書はこの比較から「日本・米国・ドイツ・中国の中で、(中略)最も大きく増加したのは、日本であった」と記述しています。
ここで、日本だけを同条件値(+25.5ポイント)に置き換えても、ドイツの+16.4ポイントを上回ります。つまり結論は反転しません。「白書の国際比較が誤っている」とは書けません。
ただし、注意しておく点があります。本編の節末には「日本に加えて米国・ドイツ・中国に関しても、2024年度個人向け調査では調査対象の年齢を20歳以上としていたが、今回の2025年度個人向け調査では新たに15歳~19歳を調査対象に加えている。」と書かれています。4か国すべてで対象年齢が変わっているのに、同条件(20歳以上)の値が公表されているのは日本だけです。
これが意味するのは、読者の側では同じ基底に揃えた検算ができないということです。日本は52.2%という同条件値を持っていますが、他3か国の20歳以上の値は手元にありません。推定して埋めることもできません。
結論を疑う根拠はありません。ただ、「検算できない前提の上に立っている結論」として記録しておくかどうかで、次に同じ資料を引くときの慎重さが変わります。
この数字で言えること、言えないこと
言えること(白書の原文と図表データから直接確認した範囲)
- 個人向け調査の利用経験率は、2023年度9.1%、2024年度26.7%、2025年度58.8%として公表されている
- 2025年度調査から15歳〜19歳が対象に加わり、20歳以上に限った値は52.2%である。この変更は概要・本編の両方で開示されている
- 同条件で並べた増加幅は+25.5ポイントである
- 日本の有効回答数は1,236件で、10歳代〜60歳代に各206件ずつ配分されている。15歳未満と70歳代以上は対象外である
- 公表値から計算すると、「全体」値は年代別の単純平均に一致する(2025年度について確認)
- 4か国すべてで対象年齢が変わっており、同条件の値が公表されているのは日本のみである
- 図表Ⅰ-1-1-1の出典は、本編で「総務省(2026)『国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究』」と明記されている
言えないこと
- 「日本の人口の58.8%が生成AIを使っている」。均等割り付けのモニター調査であり、人口構成による重み付け推計ではない
- 「58.8%は水増しである」「白書が誤っている」。両方の値が定義上正しく、変更も開示されている
- 米国・ドイツ・中国の20歳以上の値。公表されていないため、推定しない
- 「2024年度の26.7%も年代別の単純平均である」。2024年度の割り付け方法が資料に記載されていない
- 15歳〜19歳の利用経験率が前年はどうだったか。2024年度調査は20歳以上のみを対象としており、比較できる値が存在しない
- 生成AIの使い方の適否や利用の質。設問は経験の有無のみを測っている
なぜ注記は読み飛ばされるのか
変更が開示されているのに引用が揺れるのは、読み手の不注意だけでは説明しきれません。構造の側にも理由があります。
まず、本文が先に結論を与えていることです。「この1年間で大きく上昇していることがわかる」という文は、それだけで引用に使える完成した一文です。この文を読み終えた時点で、読み手の中の作業は終わります。節末の段落に進む動機が、本文の側から与えられていません。
次に、数字の見た目が揃っていることです。26.7%と58.8%は、同じ桁・同じ単位で、同じ図の中に並んでいます。単位が同じ数字は、基底も同じだと見なされます。対象範囲が違うという情報は、数字の表記のどこにも現れません。
さらに、倍増という形が記憶に残りやすいという点があります。26.7から58.8は、ほぼ2.2倍です。「倍増」は一語で伝わり、+25.5ポイントは一語になりません。伝えやすい形のほうが、引用の過程で生き残ります。
最後に、この種の変更は、調査の品質向上として行われていることです。15歳〜19歳を加えたのは、調査の対象をより広く取るための改善と考えられます。改善のつもりで行われた変更は、「注意喚起すべき欠陥」として扱われにくくなります。だから注記の形で置かれ、本文の中には入りません。
自分が引く数字で試せる最小の検証
手元の資料から、公的統計や調査レポートの数字を引いている箇所を1つ選んでください。10分で確かめられることがあります。
確認するのは、次の3点です。
- 分子と分母の定義:その比率は、何を何で割った値か。「利用率」なら、経験の有無か現在の利用か。分母は全回答者か、特定の条件を満たす回答者だけか
- 前年の値と同じ基底か:前年比を書いている場合、2つの値が同じ対象・同じ設問・同じ集計範囲で得られたものか。注記に設計変更が書かれていないか
- 「全体」の作り方:全体値が、各区分の単純平均なのか、母集団の構成で重み付けした推計なのか。調査概要の抽出方法(均等割り付けかどうか)を見れば見当が付く
3点のうち1つでも資料から確認できないものがあれば、その数字は「確認できた範囲」を添えて引くという扱いになります。「利用率は58.8%」ではなく「15歳〜69歳の均等割り付けモニター調査で、経験ありの回答が58.8%」と書けば、受け取る側が自分で重さを決められます。
書き足す文字数は20字程度です。この20字が、資料を引いた側の判断の跡として残ります。
判断の土台として置いておくこと
- 「前年比」は、前年と同じ条件で測った値どうしでなければ作れない。調査設計が変わった年の数字は、変更の有無を注記で確認してから並べる
- 同じ図の中で単位が揃っている数字でも、基底が同じとは限らない。注記は、本文から離れた場所に置かれることがある
- 「全体」値の作り方は、抽出方法で決まる。均等割り付けの調査なら、全体値は人口構成を反映していない
- 開示されていることと、読み手に届くことは別である。自分が書く側に立ったときも、変更の注記は結論の文の隣に置くほうが届く
公的統計を引く前に確認する項目については、中小企業のAI導入率は20%なのか12%なのか|統計を引用する前に確認すべき3つのことで同じ構造を扱っています。生成AIの利用については、企業を母集団とした調査を生成AI活用が「議事録・メール」に偏るのはなぜか|検証コストという仮説で扱いました。本稿は個人を母集団とした調査の話であり、2つの数字は同じ文脈に置けません。どちらの母集団の話をしているかを先に決める必要があります。
参考資料・引用元
- 総務省「令和8年版 情報通信白書(概要)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/001082851.pdf (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」第1部第1章第1節「生成AIサービスの利用状況」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd111110.html (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」国際比較の節 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd111120.html (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」図表データ(図表Ⅰ-1-1-1) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00004.csv (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」図表データ(生成AIサービスの利用経験・国別年齢別、日本分) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00012_01.csv (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」図表データ(生成AIサービスの利用経験・前年比較) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00008_01.csv / https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00008_02.csv / https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00008_03.csv / https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/csv/f00008_04.csv (確認日: 2026-10-29)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」図表データ一覧 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/datashu.html (確認日: 2026-10-29)