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AI活用・LLM

AIの「影響評価」がJISになった|JIS Q 42005・42006 発行で何が変わるのか

2026年8月30日
9分で読めます
AIの「影響評価」がJISになった|JIS Q 42005・42006 発行で何が変わるのか

この記事の結論

取引先や監査から「AIをどう管理しているか」を問われ始めた。日本規格協会は2026年8月20日、AIシステムの 影響評価と、認証機関への要求事項をJISとして発行しました。任意規格であって義務ではないことを踏まえた うえで、中小企業がこれをどう使えるのかという判断軸を整理します。

AIの「影響評価」がJISになった|JIS Q 42005・42006 発行で何が変わるのか

AIを業務に入れている企業に、外から問いが飛んでくるようになりました。取引先の調達部門から、監査から、あるいは大手企業のサプライヤー審査から。「そのAIは、どういう影響を及ぼしうるものとして評価していますか」。

問われた側は困ります。使っていることは説明できる。効果も言える。しかし「影響をどう評価したか」を、相手が受け取れる形で示すとなると、そもそも型がありませんでした。

この記事では、その型が公的な規格として整備されたという事実と、それを中小企業がどう使えるのかを整理します。

出典は日本規格協会(JSA)のプレスリリースです(2026年8月30日に取得)。

先に範囲を断っておきます。規格は有償で、本記事は購入していません。 したがって条項の文言や具体的な評価手順には踏み込みません。書けるのは、リリースに記載された概要の範囲と、そこから導ける判断軸までです。

30秒で要点

  • 日本規格協会は2026年8月20日、AI関連の2つのJISを発行した
  • JIS Q 42005:2026「情報技術-人工知能(AI)-AIシステムの影響評価」(ISO/IEC 42005:2025 に整合、46ページ、9,460円)
  • JIS Q 42006:2026「情報技術-人工知能-AIマネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項」(ISO/IEC 42006:2025 に整合、36ページ、9,020円)
  • JIS Q 42005 は、AIシステムが社会や個人に与える影響を評価する方法論を示し、差別的な結果・環境への影響・労働や人権への影響といった懸念を扱う
  • JIS Q 42006 は、AIマネジメントシステムを審査する第三者認証機関への基準を定め、審査員の力量要件や審査の基準を規定する
  • JISは任意規格であり、リリースに義務化の記述はない

用語意味
JIS日本産業規格。任意規格であり、それ自体が法的な義務を生むものではない
影響評価ある仕組みが、社会や個人にどのような影響を及ぼしうるかを事前に洗い出して評価すること
AIマネジメントシステムAIの利用を組織として管理する仕組み
第三者認証機関組織の仕組みが基準を満たしているかを、外部の立場から審査・認証する機関
整合国際規格の内容に合わせて日本語の規格を作ること

2つの規格は、役割が違う

同時に発行された2つですが、向いている先が違います。

JIS Q 42005 は、AIを使う組織が対象です。自分たちのAIシステムが社会や個人にどんな影響を与えうるかを評価する、その方法論を示すものとされています。リリースでは、差別的な結果、環境への影響、労働や人権への影響といった懸念を扱うと説明されています。

JIS Q 42006 は、審査する側が対象です。AIマネジメントシステムを審査して認証を出す第三者機関が満たすべき要求事項で、審査員の力量要件や審査の基準を規定するとされています。

つまり片方が「評価される側の作法」、もう片方が「評価する側の作法」です。認証という仕組みが成り立つには両方が要るため、セットで発行されたと読めます。

「義務ではない」ことの意味

ここは正確に押さえます。JISは任意規格です。リリースにも義務化の記述はありません。

では意味がないのかというと、そうはなりません。任意規格の実務的な効き方は、法的な強制ではなく「共通言語になること」にあります。

これまで「AIの影響をどう評価したか」を説明しようとすると、各社が独自の様式で書くしかありませんでした。受け取る側も、その様式が十分なのかを判断する基準を持っていません。結果として、説明のやり取りが毎回ゼロから始まります。

規格が整備されると、この往復のコストが下がります。「どの項目を評価すべきか」の目録が共有されるからです。認証を取るかどうかとは別に、目録として参照する使い方があります。

なぜ「うちには関係ない」と考えてしまうのか

中小企業でこの種の規格が素通りされやすい理由は、いくつかあります。

ひとつは、認証にコストがかかることです。第三者認証を受けるとなれば、費用も工数もかかります。「認証は取れない」という結論が先に出ると、規格そのものも自社と無関係なものとして処理されます。規格を読むことと、認証を取ることが同一視されているわけです。

もうひとつは、規格の名前が難しいことです。「AIマネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項」という名称からは、自社が読むべきものかどうかが分かりません。実際、42006 のほうは審査機関向けなので、多くの企業には直接関係ありません。しかし42005 は使う側の話です。2つが同時に発表されたことで、まとめて「専門機関向け」に見えてしまう構造があります。

そして三つ目に、問われるまで必要性が現れないことです。影響評価は、それをやったからといって売上が増えるものではありません。取引先から問われて初めて、無いことが問題として現れます。そして問われてから作ると、間に合いません。

確かなことと、まだ確かではないこと

確かなこと:日本規格協会が2026年8月20日にJIS Q 42005:2026 と JIS Q 42006:2026 を発行したこと。それぞれの規格名称。ISO/IEC 42005:2025 および ISO/IEC 42006:2025 に整合しているとされること。ページ数と価格(2026年8月20日発行時点で46ページ9,460円、36ページ9,020円)。JIS Q 42005 が扱う懸念として差別的な結果・環境への影響・労働や人権への影響が挙げられていること。JIS Q 42006 が審査員の力量要件と審査の基準を規定するとされること。

まだ確かではないこと規格本文は購入していないため、条項や要求事項の具体的な文言、評価の様式、手順には一切踏み込んでいません。 「整合している」の具体的な一致範囲(一致/修正の別)も確認していません。また、JISは任意規格であり、これによって何らかの法的義務が生じたという事実は確認していません。ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム規格の本体)の内容も、今回の情報源では扱われていないため触れていません。

判断軸の提示

認証を取るかどうかを決める前に、「いま問われたら何を出せるか」を1枚にしてみること。

規格対応というと、認証の取得が目的に見えます。しかし多くの中小企業にとって、当面の課題は認証ではなく説明の準備です。そして説明の準備は、規格を買わなくても始められます。

順序としては、次のようになります。

  1. 自社で使っているAIを一覧にする — 業務ごとに、何に使っているかを書き出す
  2. それぞれについて、誰に影響が及ぶかを書く — 顧客か、従業員か、応募者か、取引先か
  3. 影響の種類を、規格が挙げている軸で確認する — 差別的な結果になりうるか、労働や人権に関わるか、環境への影響があるか
  4. 判断した根拠を1行ずつ残す — 「該当しない」と判断したなら、なぜそう判断したのかを書く
  5. 問われたときに、この1枚を出せる状態にしておく

4番目が要点です。影響評価の価値は、「問題がある」と発見することよりも、「検討した形跡が残ること」にあります。 検討していない状態と、検討して該当なしと判断した状態は、外から見て別物です。

そのうえで、この1枚を作ってみて項目立てに迷うようなら、そこが規格を買う判断のタイミングになります。

自分でも試せる、最小の検証

自社で使っているAIツールを1つ選び、「このツールの出力が、誰にとって不利に働きうるか」を1行で書いてみてください。

書けるなら、影響評価の入口には立てています。「特にない」としか書けない場合、それが本当に無いのか、まだ考えていないだけなのかを区別する必要があります。区別する方法は簡単で、そのツールの出力を受け取る人を具体的に挙げてみることです。応募者、顧客、部下、取引先——誰かが必ずいます。その人にとって出力が外れたとき何が起きるかが、評価すべき影響の最初の1項目になります。


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